医療機器の規格
医療機器の安全規格
医用電気機器の安全規格
医用電気機器の安全規格に関しては、JIS T 0601-1:2012 で「医療機器ー第1部:安全に関する一般要求事項」が定められています。 医用電気機器を安全に適用するために安全手段別の3つのクラス分類と、患者への適用の仕方によって3つの形別分類されています。
(1)クラス分類
電気機器は漏電による電撃の防止対策が必要ですが、その基本は基礎絶縁(電源と人体が触れる部分を電 的に切り離すこと)です。 医用電気機器では、さらにもう一つの追加的安全手段の装備が義務付けられ、二重安全が要求されています。
クラス分類 | 保護手段 | 追加保護手段 | 備 考 |
---|---|---|---|
クラスⅠ機器 | 基礎絶縁 | 保護設置 | 医用3Pプラグを持つ。設備側で医用3Pコンセントが必要 |
クラスⅡ機器 | 補強絶縁 | 絶縁が二重となっており、設備側は2Pコンセントでもよい(一般家庭でも使える) | |
内部電源機器 | 内部電源 | 内部に電源がある。電源アダプタ等を接続する場合はクラスⅠ・Ⅱと同等。 |
①クラスⅠ機器
クラスⅠ機器はアース(保護設置:漏れ電流を大地に逃がす道)を付けることによって、 万一漏電しても、漏れ電流が患者や操作者に流れないように配慮した機器です。 電源プラグはアースピンを持ったいわゆる医用3Pプラグ(接地極付きプラグ)を装備しています。 また、設備側には3Pプラグが差し込める医用3Pコンセント(接地極付きコンセント)および、医用接地端子が必要となります。
②クラスⅡ機器
クラスⅡ機器は、電源部が二重絶縁(基礎絶縁+補強絶縁)されているので、 アースをつけていなくても安全に使用できる機器です。 電源プラグは2Pプラグでもよく、アースの無い所でも使うことができます。 往診用機器や一般家庭で医用電気機器を使用する場合はクラスⅡ機器が適しています。
③内部電源機器
内部電源機器は内蔵した電池で動く機器で当然ながら電気設備には依存しません。 ただし、電源アダプタなどを使って交流電源でも作動できるようになっている内部電源機器は、 交流電源につないでいるとき、クラスⅠまたはクラスⅡ機器の要求事項を満足しなければなりません。
(2)形別分類(装着部の分類)と漏れ電流の規制
形別分類とは、機器を患者身体の体表に装着するのか、心臓に直接接続するのかの違いと、 漏れ電流の許 容値の程度による分類のことです。
装着部の分類 | 患者漏れ電流(正常状態 | 適用部位 | 外部からの電流流入保護 | 備 考 |
---|---|---|---|---|
B形装着部 | 0.1mA | 体表のみ | 保護なし | 単独使用 |
BF形装着部 | 0.1mA | 体表のみ | フローティング | 複数同時使用 |
CF形装着部 | 0.01mA | 心臓直接適用 | フローティング | 心臓直接適用 |
①B形装着部
体表にのみ装着する機器(装着部)で、安全性のグレードは一番低いもの。 BF形装着部と違って、患者に1台の機器のみを使用することを想定しています。 患者に接続しない機器も、この形でなければなりません。
②BF形装着部
形装着部と同様に、体表にのみ適用する機器(装着部)ですが、多数の機器を同時に接続することを想定していて、 他の機器からの漏れ電流が流れ込まないようにプロテクトされています。 機器と機器の間に入った患者が感電されないように設計された装着部となっています。
③CF形装着部
CF形装着部は、一番グレードが高く、機器のセンサやリード線が直接心臓内に挿入される機器(装着部)です。 従って、B形装着部やBF形装着部は決して心臓に直接接続してはいけません。
医用電気機器を製造する上での注意事項
医用電気機器は装着部を持つので人体に直接触れたり、またはエネルギーを授受するなど生体に影響を与える医療機器です。
従って、たとえば体に埋め込むような心臓ペースメーカーの場合などの医用電気機器は誤動作や故障が生死に直結するため、
安全性を確保する目的でJIST0601-1:2012にて表示・接地・連続漏れ電流・耐電圧・温度や組立てから、
使用する部品に至るまで細かく規定されています。
これを守らないと届出・認証・承認が滞るばかりか、医用電気機器として認められず製造・出荷することができません。
またJISに規定されていなくても、誤動作や故障に繋がるようなノイズなどに対して、
プリント基板や機構の設計段階から対策を折り込んでおくことが、信頼性の高い医用電気機器の製造に繋がります。
医療機器に要求される 『リスクマネジメント』
医療機器はその性格上、あらかじめリスクを想定し対策を講じておくことが必要であり、
JIS T 14971等でリスクマネジメントの要求されます。
医療機器のリスクマネジメントとは、医療機器のリスクを管理するための枠組みであり、
①リスク分析
②リスク評価
③リスクコントロール
④製造中および製造後情報のレビューを含んだプロセスであり、管理方針、手順および実施を体系的に適用することとあります。
医療機器では、患者、使用者が危険に遭わないように事前にその原因となるものを低減しておくことに加え、
リスクを管理する手順も含めることがリスクマネジメントということになります。
JIS T 14971では製造販売業者が行う承認申請や認証申請時にリスクマネジメントに関する資料の添付が要求されています。
具体的には、設計や開発の段階から製造、市販後にいたる全てのプロセスにおいて、
リスクの分析→リスクの評価→リスクのコントロール→残留リスク全体の受容可能性評価→ リスクマネジメントのプロセスをレビュー→製造及び市販後情報の反映 、 といった活動を実施しPDCAサイクルとしていくことになります。
医療機器は生体に影響を与えるリスクが大きいので、リスクマネジメントを徹底するようJISで定められています。 設計段階、開発段階はもちろんのこと、製造・市販後にいたる全てのプロセスにおいて、 情報を収集し改善を行うというPDCAサイクルを回していくことが求められています。
漏れ電流形別分類
漏れ電流種類 | 流れ |
---|---|
接地漏れ電流 | 保護接地線(アース線)を流れる漏れ電流 ① |
接触電流 |
機器外装から大地に(操作者などを介して)流れる漏れ電流 ② 機器外装→患者→大地 又は、機器外装→患者→機器外装→大地(保護接地) |
患者接続部からの大地への電流 |
装着部(電極)から(患者を介して)大地に流れる漏れ電流 ③ 機器→装着部(電極)→患者→大地 |
信号入出力部(SIP/SOP)へ外部電圧を 印加した場合の電流 |
信号入出力部に乗った電源電圧によって装着部から(患者を介して)流れる漏れ電流 ④ 他の機器→信号入・出力部→ME機器→装着部から患者→大地(保護接地) |
F形装着部の患者接続部へ外部電圧を 印加した場合の電流 |
(F形絶縁)装着部に(患者を介して)乗った電源電圧によって機器から大地に流れる漏れ電流 ⑤ 他の機器→患者→装着部を介してME機器→大地(保護接地) |
保護接地していない金属の接続可能部分への 外部電圧を印加した場合の電流 |
保護接地していない金属の接続可能部に外部より乗った電源電圧によって機器から大地に流れる漏れ電流 ⑥ 他の機器→保護接地していない金属の接続可能部→ME機器→大地(保護接地) |
患者測定電流 ※ |
装着部の部分間に患者を介し流れる生理学的な効果を意図しない電流 ⑦ 増幅器バイアス電流やインピーダンスプレチスモグラフ(呼吸の有無のモニタ)に使用する電流など 機器→装着部→患者→装着部を介して機器→大地(保護接地) |
※ 患者測定電流とは、事故とか過ちではなく生体計測などを目的として外部から患者に流す電流のことであり、漏れ電流ではない。
漏れ電流形別分類
形別分類 | 患者漏れ電流(正常状態※) | 外部からの流入 | 適用範囲 |
---|---|---|---|
B形 | マクロショック対策100 μA | 保護なし | 体表のみ適用 |
BF形 | フローティング | ||
CF形 | ミクロショック対策10 μA | 直接心臓に適用可 |
※ 故障時にはこの5倍まで許容されます
B形、BF形装着部をもつ機器
B形、BF形装着部をもつ機器は、体表のみの適用される機器で記号の”B”は、Body(身体)の頭文字をとったものです。
CF形装着部をもつ機器
CF形装着部をもつ機器は、心臓にも適用できる機器で心臓に直接接触する可能性のあるペースメーカーや 心内心電図などは必ずCF形装着部をもつ機器を使用しなければなりません。記号の”C”は、Cardial(心臓)の頭文字をとったものです。
フローティング
BF形、CF形にある記号の” F ”は、Floating(フローティング;浮いている)の頭文字をとったものです。
フローティングとは、浮いているすなわち絶縁していることを意味し、
患者回路(患者に接続されている電極やリード線)と機器本体の電源部が電気的に絶縁されており、
患者に流れ込む漏れ電流を低く抑えることができます。
他の機器と併用して使用する場合は、別の機器→人体→機器本体→大地という流れが形成され、
人体を介して機器に流入する漏れ電流が考えられるため、他の機器を併用する場合は、
外部からの漏れ電流の流入を阻止するフローティングされた機器を使用しなければなりません。
フローティングの手段としては、トランスを用いて磁気的に結合(電気→磁気→電気)させたり、
光信号で結合(電気→光→電気)させることで電流が直接患者に流れないようにしています。
単一故障状態
- 絶縁のいずれかひとつの短絡
- 沿面距離または空間距離のいずれかひとつの短絡
- 絶縁、空間距離または沿面距離と並列に接続している高信頼性部品以外の部品の短絡および開路
- 保護接地線の開路
- 電源導線のいずれか1本の断線
- 部品の意図しない移動
- 危険状態に結びつく導線およびコネクタの偶然の外れによる破損
漏れ電流
漏れ電流および患者測定電流の許容値
電撃に対する保護のために流れる電流を規定値内に制限する必要があります。漏れ電流の種類と機器の生体への適用部位よって異なります。
漏れ電流 | 経路 | B形装着部 | BF形装着部 | CF形装着部 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
正常状態(NC) | 単一故障(SFC) | 正常状態(NC) | 単一故障(SFC) | 正常状態(NC) | 単一故障(SFC) | |||
接地漏れ電流 | 5000 μA | 10000 μA | 5000 μA | 10000 μA | 5000 μA | 10000 μA | ||
接触電流 | 100 μA | 500 μA | 100 μA | 500 μA | 100 μA | 500 μA | ||
患者測定電流 | 直流 | 10 μA | 50 μA | 10 μA | 50 μA | 10 μA | 50 μA | |
交流 | 100 μA | 500 μA | 100 μA | 500 μA | 10 μA | 50 μA | ||
患者漏れ電流 | 患者接続部から大地への電流 又はSIP/SOPへ外部電圧を印加した場合の電流 |
直流 | 10 μA | 50 μA | 10 μA | 50 μA | 10 μA | 50 μA |
交流 | 100 μA | 500 μA | 100 μA | 500 μA | 10 μA | 50 μA | ||
合計患者漏れ電流※ | 一緒に接続した同一形装着部からの電流 又はSIP/SOPへ外部電圧を印加した場合の電流> |
直流 | 50 μA | 100 μA | 50 μA | 100 μA | 50 μA | 100 μA |
交流 | 500 μA | 1000 μA | 500 μA | 1000 μA | 50 μA | 100 μA |
※ 合計患者漏れ電流とは、複数の装着部を有する場合の漏れ電流の合計をいう
特別の試験条件下の患者漏れ電流の許容値
漏れ電流 | 経路※1 | B形装着部 | BF形装着部 | CF形装着部 |
---|---|---|---|---|
患者漏れ電流 | F形装着部の患者接続部へ外部電圧が 印加した場合の電流 |
非該当※3 | 5000 μA | 50 μA |
保護接地していない金属の接触可能部分へ外部電圧を 印加した場合の電流 | 500 μA | 500 μA | ―※4 | |
合計患者漏れ電流※2 | F形装着部の患者接続部へ外部電圧が 印加した場合の電流 |
非該当※3 | 5000 μA | 100 μA |
保護接地していない金属の接触可能部分へ外部電圧を 印加した場合の電流 |
1000 μA | 1000 μA | ―※4 |
※1 1999年度版では、”装着部に電源電圧が現れた”ことが患者漏れ電流Ⅲの単一故障状態として扱ってきたが、
この規格は特別の試験条件として別に扱っている。
さらに、保護接地していない金属の接触可能部分に最高電源電圧を印加する試験も、特別試験条件である。
※2 合計患者漏れ電流は、複数の装着部をもつ機器だけ適用可能である。
※3 この条件は、F形装着部に対する要求事項であるため、B形装着部に関しては対象外となる。
※4 この条件は、装着部に最高電源電圧を印加する試験で扱っているので、CF形装着部では試験しない。
クラス別分類と保護手段
電撃に対する保護手段によって分けられた機器分類です。
クラス別 | 保護手段 | 追加保護 | 備 考 |
---|---|---|---|
クラスⅠ機器 | 基礎絶縁 | 保護接地 | 保護接地設備が必要。3Pコンセント使用。 |
クラスⅡ機器 | 補強絶縁 | 使用上の使用制限なし。 | |
内部電源機器 | 内部電源 | 外部電源に接続する際クラスⅠ又はクラスⅡ機器として働くこと。 |
基礎絶縁
医療機器に限らずすべての電気機器に施されている基本的な保護手段。
電源からの漏れ電流を低く抑えるため、漏れ電流を生じやすい電源トランス等に絶縁物を囲むこと周囲に電流が漏れないようにする基礎的な絶縁です。
追加保護手段
医用電気機器が適用される患者は、体が弱っていたり、手術中で麻酔がかけられていたり、 センサやトランスデューサ、コードが取り付けられていて患者に危険が及んでも患者自身では逃れられない状況での使用が考えられるため、 万一基礎絶縁が破壊された場合に備えてもう一つの安全手段それが追加保護手段です。
保護接地
クラスⅠ機器に義務付けられている追加保護手段です。
保護接地すなわちアースを接続して使用することで万一漏れ電流が漏れても人体よりも
抵抗の低いアース線に漏れ電流を逃がし人体に流れないようにする安全手段です。
電源コードに3Pプラグが付いており、3Pコンセントに接続して使用します。
補強絶縁
クラスⅡ機器に義務付けられている追加保護手段です。基礎絶縁に補強絶縁を施したものを二重絶縁と呼びます。
基礎絶縁の上に更に2重に絶縁(補強絶縁)を施すことで漏れ電流を非常に少なくします。
漏れ電流自体が少なくなるため、アースに漏れる電流も非常に少ないため、
アース線は必要なく2Pコンセントに差し込んで使用しても構いません。(3Pコンセント必要なし=使用上の使用制限なし)
強化絶縁と二重絶縁
クラスⅡ機器の保護手段として強化絶縁も認められています。これは二重絶縁とほぼ同じ意味です。
基礎絶縁と補強絶縁の二重絶縁は、基礎絶縁と補強絶縁の2つに対して検査を行う必要がありますが、
強化絶縁は、強化絶縁のみ検査でよいという違いです。二重絶縁も強化絶縁も使用上は同じですが、保守管理上異なるという違いです。
内部電源
内部電源機器に義務付けられている追加保護手段です。
内部電源(電池、バッテリーなど)を使用することで電源トランスなど漏れ電流を
発生しやすいものを用いずに利用できるため漏れ電流の発生をおさえることができます。
しかし、外部電源(コンセント)から電源を供給する場合は、クラスⅠ機器又はクラスⅡ機器としてはたくこと。
つまり、3Pコンセントに接続するか補強絶縁が施されてなければなりません。
クラス0Ⅰ機器
クラス0Ⅰ機器とは、2P機器に別途アース線を引いてくるタイプを呼びますが、 これは医用電気機器としては認められおらず、クラスⅠ機器ではありません。
クラスⅢ機器
クラスⅢ機器は、旧JISの記載されていたクラスですが、現行のJISには存在しません。
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